先日、Lunatic-Haiコーチの「ゲンジのUltはキルが目的ではない(キリッ」というコメントを紹介しましたが、今回はそのコーチのコメントを補完するDisengage(Disengaging)という戦術ないし概念に関するレポートです1。
Disengaging: Overwatch’s Most Devastating Strategy
高度にグループ化されたチーム同士の戦いでは相手のUltを実質無効化するプレーにより、時としてチームワイプ以上の効果をもたらすことがあります。
ここで紹介するディスエンゲージは非常にパワフルな戦術ですが、対戦相手も含めた高いレベルので相互理解、高度な連携を必要とするためにランクマッチではまずお目にかかることはないでしょう。
チームとして確立された対戦相手を知ることにより導き出されたAPEXのトップチームが見せるディスエンゲージはいくつかのタイプに分けることができますが、まずはその一つ目となる“Run and Hide”についてLHコーチの言葉をもとに検証していきます2。
“RUN AND HIDE”
Lunatic HaiのAlwaysSoovコーチはRogue(他の欧米のチームも暗に含めている)は常に主導権を得るためにUltを「真っ先に」に使う傾向にあり、カウンターリアクションの手段として用いていることがないと指摘し、LHはそれを巧く利用することができたと述べている。
RogueのUltの使い方は読みやすいだけでなく、各自が秩序立ててUltを使う代わりに、複数のUltを同時に発動させる傾向があり、LHはこの二つの傾向をより有効に活用し、コーチもそれを念頭においた戦術を用意した。
LHはこの戦いのために用意した戦術、 “Run and Hide”を試合を通して完璧に遂行した。上記の動画はこのディスエンゲージのコンセプトを端的にあらわしている。
LHから圧力を感じたRogueはWinzのサウンドバリアとAKMのタクティカルバイザーでそれに対抗しようと考えたが、LHのプレイヤーはバイザーの視界から完全に姿を消し、RogueのUltはまったくの無駄に終わる。
ハリウッドはこの”Run and Hide”にとりわけ適したマップで、ストリートフェーズではカバーできるポイントが多く、LHは高台に移動するなどしてAKMによるバイザーの視野から逃れている。
この試合のために入念にプランを練り、練習を重ねたことで二つのUltを無に帰すことができた。RogueはUltエコノミーという点で有利な立場(Ultのチャージ率が先行していた)にありながら、防衛側として有利なポジションを取ることも、時間を稼ぐこともできなかったため、これはRogueにとって大きな打撃となった。LHにはペイロードを押すための十分な時間がまだあり、Ultのチャージ率もこれでイーブンになった。
高いレベルにおいては、ナノブレードに合わせるサウンドバリアのように僅かなタイミングがチームの生死を分けることがある。プロ選手は長年の練習や試合の賜物として、危険なシチュエーションに対する素早いリアクションが体に染み付いているが(これをマッスルメモリーとも言う)、昨今のメタゲームは進化し、これを逆手にとり実際に戦闘がはじまったように見せかけて(フェイク)相手からこういったリアクションを引き出す戦術がある。典型的なディスエンゲージとはやや異なるものの、筆者はこれを”Bait and Trade”と呼んでいる。
“BAIT AND TRADE”
この戦い方は相手のリアクションを誘い出し…大抵は心頭滅却かサウンドバリアを誘発させるが…その際、誘発させるための手段はUltを複数撃つなどの無駄は避けて最小限に留めるのが理想となる。
相手からリアクションを引き出すための手段として、一般的にはナノを付けない通常のドラゴンブレード(これはDVAのマトリックスで防ぐことはできない)を使う。上空に跳びあがるゲンジの姿とUltのボイスコール“Ryūjin no ken o kure!”(原文ママ)は通常であれば相手のカウンターUltを一つもしくはそれ以上を吐き出させるために十分なアクションと言える。
LHのコーチは「RogueがWhoRU単独のドラゴンブレードに2~3のUltをリアクションとして合わせてくることはRogueの傾向として予め分かっていたので、WhoRUにはキルではなく相手のUltを複数誘い出すためにドラゴンブレードを使うように指示した」とも話している。
動画のケースではドラゴンブレードではなく、Ultなしのゲンジにナノブーストをかけ、WhoRUが相手バックラインめがけてスーサイドダイブを仕掛けている。彼は眠らせれキルされるという痴態を晒してしまったが、この神風アタックはRogueのナノバイザーを促したことで十分な成功を収めるている。
LHは2デス(ゲンジ、ゴリラ)+Ult1個と相手のUlt2個をトレードし、このUlt1対2のトレード後は即座にディスエンゲージしてバイザーの視界から逃れている。
このコンセプトは攻撃的Ult1個対守備的Ult1個という1対1のトレードでも有効で、特にオフェンス側に有利に働く。攻撃的なUltは豊富な一方、守備的なUltは実質サウンドバリアと心頭滅却に限られており、例えばドラゴンブレードでサウンドバリアを吐かせ、グラビトンサージで心頭滅却を使わせた後も攻撃側にはバイザー、プライマルレイジ、パルスボム、ナノブースト…の何れかがまだ残っている。
上記のクリップのように、相手の貴重な守備的Ultを消費させ、自チームを優勢にするためのトレードにはデスという犠牲を払うこともあるため、新たな守備的Ultがゲームに追加されるまではこういった心理戦が続けられることになると思われるが、それらを制した者が韓国では頂点に立つことができる
これまであげた二つのコンセプトのように明確なディスエンゲージではないにしても、同様に心理戦的な性質を有しているコンセプトがある。既に紹介したディスエンゲージとは異なり、このコンセプトではUltエコノミーよりも、よりミクロレベルでのポジション取りにフォーカスしている。回りくどい言い方はやめて、ここでは”Bait and Surround”と呼ぶことにしよう。
“BAIT AND SURROUND”
APEX準々決勝のEnVyUS対X6-Gaming戦で、MickieとCoccoは戦闘の早い段階で、残りのチームメイトと分断された不可解なポジションで度々デスしていたが、何度かリプレイを見直すことで、その原因がX6側の戦い方にあることに気づいた。
この試合のようにダイブコンプ同士のミラーマッチとなった場合、相手チームのサポートめがけてダイブしたプレイヤーがファーストキルを取る傾向にあるが、両チームは相手に遭遇した途端にこういったダイブが起きないよう相手に様々なプレッシャーをかけていく。
例えば、しばし単独のユニットとして機能するトレーサーが相手ヒーラーの体力を削ると同時に、敵トレーサーを味方ヒーラーから剥がすよう試みる。もしどちらかのトレーサーがキルを取るか十分なダメージをターゲットに与えることができれば、それが最初のダイブ(この最初のダイブが極めて重要とのこと)の引き金となる。
この他にもチームがダイブを仕掛けると判断する状況はいくつかあり、上記の動画のシーンでもそれを確認することができる。
動画でX6のNosmite(ゴリラ)はリープを使わずにジワジワとEnVyの一団に詰め寄りながらシールドを展開して前線でテスラキャノンを放出する。ゴリラはChoihyobin(DVA)のサポートを受けていたが、この時、EnVyは彼ら(ゴリラとDVA)と敵主力部隊の距離が離れすぎていると判断したに違いない。
これが(バックラインとDVA/ゴリラとの距離が離れたことで)X6側のサポートを狙うMickie(DVA)のダイブを促すことになった。
しかし、これは相手が仕組んだ罠であり、X6はEnVy側が先にダイブを仕掛けてくることを望んでいた。先行していたゴリラとDVAは180°向きを変えるだけでMickieを包囲(surround)できるからだ(味方のバックラインとでMickieを挟撃する形になる)。
画質は悪いが、NosmiteがリープでMickikeめがけて飛び込んだシーンを見れば、彼がリープを使わずに前進してきたことも含めて、一連の動きが意図したものであったことは明らかだろう。
CoccoのゴリラもリープでNosmiteの後を追うが既に遅く、EnVyの両タンクはメルトダウンしX6は6対4という状況で簡単にポイントを奪取することができた。
“Bait and Surround”は現在のダイブメタを巧く利用した狡猾なポジションニングベースのディスエンゲージである。ダイブコンプに慣れたチームはより自らに有利に運ぶ戦闘の「開幕」を常に狙っているため、こういったチームの心理を逆手にとったハニートラップがこの「誘って囲む」という相手のファーストダイブを誘うコンセプトの根幹となっている。EnVyの名誉のために言っておくと、彼らがこういった罠に常に嵌っていた訳ではないが、罠にかけられ時は為す術なくその戦い(試合全体ではなく個々の戦闘という意味)に敗れていた。
これらのディスエンゲージはどちらかというと目立たないものであり観戦中に見極めるのは難しいが、戦闘がはじまる前のUltの使用状況、その戦闘中に使われたUlt、戦闘後に残ったUltなどをその都度チェックし続けることは、観戦スキルを上げるために必要なことでもある。
チームがUltを1つ使い、更に2~3人をその戦闘で失ったとしても、相手チームに3~4つのUltを使わせることができれば、概してその戦闘には勝利したと言える(それがゲーム終了前の最後の戦闘でない限り)。チームメンバーのポジションニングがおかしくてもそれは相手チームのダイブを誘い込むための心理戦のひとつかもしれない。
THE EVOLUTION OF DISENGAGES
ディスエンゲージという積極的に攻撃を仕掛けてくる相手の逆手を取ったリアクションの有効性について書いてはきたものの、実のところ、オーバーウォッチでは「アグレッシブな攻撃」と「アグレッシブな攻撃に対するリアクション」というスタイルが常に戦いを繰り広げている。
エンゲージにしろディスエンゲージにしろ自らのアクションにより自信を持ったチームが勝つ傾向にあるのは事実だ。RogueがUltを積極的に使うスタイルを進化させることで長い間NAシーンに君臨できたのもそれなりの理由がある。
Rogueは各プレイヤーの優れたメカニカルスキル(エイムやハンドスキルなど)が現在のメタとプレイスタイルにフィットしたこともありチームの持つ攻撃性を極限まで高めてきた。さらにNAには、Lunatic-Haiをはじめ、KRトップチームのようにディスエンゲージ戦術を実行させるための練習時間、コーチ、そしてメカニカルスキルを有しているチームは存在しない。
それ故にWinzのサウドバリアやNicoのドラゴンブレード(”Bate and Trade”ではない)を戦闘の開幕に使ったとしても何も問題はなかった。NAのダイブメタにおいて、これまでの(そしておそらくは今でも)エンゲージVSディスエンゲージという図式はエンゲージ寄りに傾いている。
現行のメタにおいて、NAでは最もアグレッシブでスキルで勝ったチームが戦闘に勝つ傾向にあるが、韓国ではスキルフルな選手や優秀なコーチが豊富に揃っているため、NAを支配したRogueの強み(積極的なエンゲージ)をディスエンゲージという概念で弱点に変えることを可能にしている。
現在のメタでは、こういったディスエンゲージとエンゲージの均衡に進化をもたらす存在も出現している。それがソンブラであり、先週のメタリポートでも書いたように彼女の使用率は得意の2CP以外でも徐々に増えつつある。
一見するとEMP発動時にカウンターリアクションを合わせるのは不可能にも思え、EnVyもX6戦でソンブラを積極的に使用してきたが、X6はしっかりと準備ができていた。
韓国のチームはスクリムでEMPを豊富に経験しており、ゼニヤッタの心頭滅却を相手EMPのカウンターとして正しいタイミングで発動させることができなければそれはミスプレーと見なされる。
ソンブラの問題としてステルスが解ける際のほんの僅かのディレイ…EMPが発動するまでの一瞬の隙があり、さらに投擲されたトランスロケーターの軌道は相手の目にも入ることから、こういったことがKR勢のゼニヤッタがEMPに反応するために必要なごく僅かな時間を与えることになる。
しかし、トーナメントで心頭滅却をEMPのカウターとして適正なタイミングで実行することは口で言うほど簡単ではない。実際、EnVyはトーナメントを通じてKR勢相手に何度もEMPをヒットさせている。
EnVyUs対X6戦のハリウッド終盤(EnVy防衛)では素晴らしいプレーを見ることができ、メタゲームにおけるディスエンゲージの進化を生で目撃することができた。
ドラゴンブレードが相手の守備的Ultを吐かせる狙いで使われるのと同様に、EMPも心頭滅却やサウンドバリアを誘発させるために利用することができる…実際にはEMPを使うと見せかけるだけで誘発させることができる。
EnVyは試合中に迅速に相手の戦い方に適応したり問題を修正することに長けたチームとして知られている。前述のように韓国人プレイヤーはEMPに合わせて適切なタイミング(EMP発動の直前)で心頭滅却を発動させるマッスルメモリーを有しているが3、EnVyはこれを利用してBebeの心頭滅却を誘い出すことに成功した。
動画ではステルス明けのChipsがBebeの前に姿を現した途端に、EMPの前兆と悟ったBebeのマッスルメモリーが反応し心頭滅却を発動(トランスロケーターで即座に離脱したので実際にソンブラの姿が見えたのはほんの一瞬)、このChipsの動きはフェイクで一旦待避して心頭滅却が消えた後でEMPを発動している4。
結果的にこの場面は既にゲーム終了間際であったこともあり、EnVyの心頭滅却対策は手遅れに終わったが、今後もソンブラが高いレベルで使用される限り、エンゲージVSディスエンゲージのせめぎ合いは続き、EMP/フェイクEMPや心頭滅却にまつわる高度な駆け引きを見ることができるのではないだろうか。
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実はこのリポートではなくて、もともとはLHコーチのコメントまとめを書く予定でしたが、どうも準々決勝が終了するまでコーチの配信はなさそうなので次のコメントが読めるのはもう少し先になりそうです(20日のConbox戦で負ければそこで終了)。
韓国繋がりついでの情報で19日にWC韓国代表メンバーの発表会が特設チャンネルで配信されます。
www.twitch.tv/playoverwatch_kr
On June 19th 03:00 a.m. , PST (19th 8:00 pm for South Korea)
日本時間19日(月)午後8時から
選考委員の3人、Runner, Yongbongtang (APEX Korean caster), TheMarine (APEX Korean caster)と代表メンバー6人による1vs1エキジビションも予定されています。
それからRogueのaKmがOverwatch Leagueについて先日のインタビューでこんなこと言ってました。
“I’ll be honest: I don’t think OWL will be ready by Q3. I don’t have much news about what is happening, or how it will happen.”
OW Contenders, OW Open Divisionといったタレントの発掘育成リーグが続けて発表されたものの、肝心のその才能を活かす、選手が最も輝けるであろう場所について未だに何も発表がありませんね5。
OWLについては選手やorgからも様々な意見が出てましたけど、「間に合わないだろう」とはっきりと公に口にしたのは彼がはじめてだと思います。
予定どおりQ3(7~9月)に開催するにしろ延期するにしろ選手だけでなくファンとしてもそろそろOWLに関する具体的な公式情報が欲しいとこです。
”https://www.overbuff.com/blog/2017-06-15-disengaging-overwatch-s-most-devastating-strategy”脚注:
- ゲーム的な解釈としてengage=戦闘の開始・継続、disengage=戦闘の終了・回避・リトリート…だと思われますが、リポートを読んだ限りではこの言葉の意味に特に囚われる必要はないように思います。
- このリポート自体がredditにポストされれたTISRobin311氏によるLHコーチのコメントリポートをベースにしているのでいくつか重複する箇所があります。
- 実際にこのゲームでもBebeのゼニヤッタはChipsのソンブラがEMPを発動させる直前に何度か心頭滅却を被せています。
- この場面ではEMP発動直後ですがX6のGilyがサウンドバリアを被せています。別サイトのリポートによると、X6はゼニヤッタとルシオが同時にEMPに巻き込まれないよう常に気を配ってポジションニングしていたとのこと。
- 5月以降多くのチームがOWから撤退する中で唯一明るいニュースというか噂がRechard Lewis氏のリーク情報でした。
内容はNFL New England PatriotsとMiami DolphinsのオーナーがそれぞれOWLのフランチャイズスロットを買収したというものです。リークといっても現時点での信憑性は50/50といったところでしょうか。