[OW2] エスコートにおける「先攻有利」を示すデータが注目を集める

Overwatch 2

オーバーウォッチにおける「攻撃側(先攻め)有利」との仮説を検証すべく、過去のOWL試合データをもとにした分析結果がRedditで注目を集めています。

Statistical analysis of attackers’ advantage with OWL match data
byu/PoiPlexed inCompetitiveoverwatch

これを検証したユーザーによると、攻守交代のあるマップ、とくにエスコートマップでは、先攻側に有利が存在することを顕著に示すデータが確認されたとのこと。

ただし、ポストの補足やコメント欄での指摘もあるように、いくつかのバイアスやサンプルサイズが十分でないこともあり、必ずしも先攻有利を明確に示しているわけではないので、その点には留意する必要があります。

OWL試合データによる攻撃側有利の統計分析

はじめに

「攻撃側有利(Attackers’ advantage)」とは、エスコートマップにおいて先に攻撃するチームが有利とされる優位性を指します。たとえば、両チームが最終ポイントを制圧し、延長戦で残り時間が1分となった状況を想像してください。両チームが攻撃時に最初の2回のチームファイトに勝利し、3回目に敗北したとします。このとき、後に防衛するチーム(先攻めチーム)は、最後のチームファイトで負けないためにペイロードをどこで止めればよいかを知っているため、わずかに早い段階で止めることで、同じチームファイト勝利数にもかかわらず試合に勝つことができる、という理屈になります。

この考え方は以前から存在しており、数か月前に議論が盛り上がった際には、こうした先攻有利が本当に存在するのか、それとも単なる錯覚なのかという点で意見が分かれました。中には、必要なプッシュ距離を把握でき、それに応じて計画を立てられるため、むしろ「後に攻撃する側が有利なのではないか」と主張する意見もありました。最近、この話題をまた目にしたことで、実際に統計的に立証できるかどうか調べてみるのも面白いのではないかと思いました。

ここでは、2021年5月23日までのOWLの試合データを使用しています。残念ながら、私が見つけたデータセットにはこの日以降の試合情報は含まれていません。この日以降(あるいはOWCSの試合データ)のデータを持っている人がいたら、ぜひ教えてください!なお、結果だけに関心のある場合は、「結果」のセクションまで読み飛ばしてください。

データ

使用データは以下のKaggleのデータセットを参照しています:
https://www.kaggle.com/datasets/sherrytp/overwatch-league-stats-lab/data

このデータセットには2018年、2019年、2020年、2021年5月のMay Meleeトーナメント直後までの試合が含まれています。

プレイオフではチームの強さによってシード順が決まり、先攻・後攻に偏りが生じる可能性があるため、今回はレギュラーシーズンの試合のみを対象とします。よって、2018〜2019年のステージ&シーズンプレイオフ、2020年のプレイオフ、2021年のMay Meleeトーナメントは除外しました。

また、2020年の最初の5週間に行われたホームスタンドもホストチームが必ず後攻になるなどのバイアスがあるため除外しています。

分析

過去のポストでは、OWL初年度の各マップタイプにおける先攻チームの勝率が調べられており、エスコートマップでは先攻チームの勝率が高いことが確認されました。

ただし、単なる勝率では統計的に有意かどうかは断言できません。たとえばコインを10回投げて7回表が出ても、それだけではコインが偏っているとは言い切れません。これを判断するには、「p値」という統計指標(二項分布)を用います。

p値とは、「本来50%の確率(=偏りなし)で起こる現象が、実際に得られた結果以上に偏って現れる確率」を表します。p値が低ければ低いほど、偏り(有意差、偶然では起きにくい差)があるといえます。

たとえば、コインを10回投げて7回表が出る確率は約34.4%(p = 0.344)。この程度では「コインが偏っている」とは言えません。一方、10,000回中6,000回表が出たとするとp値は1.74 × 10⁻⁸⁹となり2、非常に強い根拠となります。

なお、延長戦における攻撃側有利がよく言及されますが、延長戦では残り時間の差が勝敗に影響するため、偏りのない比較が難しいです。時間が完全に同じ状況もありますが、そういったデータの数は限られています。

そのため本分析では、マップ開始時に先攻だったチームが有利かどうかを、各マップタイプごとに検証しています。

結果

コントロール
先攻・後攻の概念がないルールのため、完全に50%になると予想されます。
→ 先攻チームの勝率:48.48%(509勝 / 1050試合)
→ p値:0.339
⇒ 統計的に有意差なし

エスコート
下記勝率またはそれ以上の差が「偶然」生じる確率が0.000514%であることを意味します。これは先攻有利を示す強力な証拠になります。
→ 先攻チームの勝率:58.08%(467勝 / 804試合)
→ p値:0.00000514
⇒ 非常に強い有意差があり、先攻チームに有利

ハイブリッド
ペイロード区間が含まれるため、やはり若干の有利さが予想されます。
→ 先攻チームの勝率:54.44%(435勝 / 799試合)
→ p値:0.0132
⇒ 比較的有意な差があり、先攻有利の可能性が高い

アサルト
ポイントキャプチャ率にも距離同様の論理が成り立ち、有利が存在する可能性があります。
→ 先攻チームの勝率:53.40%(400勝 / 749試合)
→ p値:0.0676
⇒ やや有利の傾向はあるが、統計的には不十分

プッシュとフラッシュポイントはOWL最終年のみ実装、同時にアサルトが廃止されています。

要約

  • エスコートマップでは、先攻チームが明らかに有利であるという強力な統計的裏付けがある
  • ハイブリッドやアサルトマップでも、ある程度の有利傾向が見られる
  • コントロールマップではこれといった有利不利はほとんど見られない

補足

u/stanners14氏の指摘によれば、2019年以降のシーズンでは、勝利したチームが次のマップで先攻・後攻を選択できるため、バイアスが生じる可能性があります(※勝利期待値の高い勝利者側が選択することにより生じるバイアス)。そのため、2018年のレギュラーシーズンのみを用いて再分析したところ、エスコートマップでは先攻チームが240マップ中133回勝利(55.42%)し、p値は0.106でした。わずかに有利が示唆されるものの、サンプル数が少ないため、強い証拠とは言えないことも分かりました。

最後の補足にもあるように、勝利者側が先攻後攻を選択できるシステムではバイアスが生じるため、2019年以降のOWLルールでは、今回の統計データでは先攻有利とは言い切れない可能性があります。

とはいえ、統計的に有意義なデータであることは間違いないので、興味がある人はランクマッチのエスコートだけでも結果を記録して、後で検証してみるのも面白いかもしれませんね。

脚注:

  1. p = 0.0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000174043164123
  2. p = 0.0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000174043164123
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