OTP問題とSRシステムの欠陥を指摘するLG Evil: Jake選手のリポート



ここ最近コミュニティの間で燻っているワントリック問題と現行のスキルレートシステムの欠陥を指摘するLG Evil所属Jake選手(米国代表)のリポートです。

まずこのリポートを理解するための前提となる個人パフォーマンスの評価方法について、ブリザードが公にしている範囲で簡単に触れておきます。

https://us.battle.net/forums/en/overwatch/topic/20754415323#post-1

この個人パフォーマンスの評価にあたっては、本人と同様のスキルレベルにある全てのプレイヤーのランクマッチにおける該当ヒーローのパフォーマンスが比較対象となります。

例えば、ランクマッチでDVAをプレーしたとすると、同じ様なスキルを持つプレイヤー群のDVAのパフォーマンス(スタッツ)と本人のパフォーマンスを比較した際の評価(パーセンタイル値)が、SRの変動に影響を与えることになります。アナならアナ、ゲンジならゲンジの同レベルのプレイヤー群と比較して「スタッツ」的に良いプレーをしていればその分SRも上がり、負けた時のSR減少を抑えることができます1

後で詳しく述べますが、この膨大なプレイヤープールとの比較でひとつ問題となるのがFlexプレイヤーがワントリックプレイヤー(OTP)に比べて「割に合わない」傾向にあるということです。これは私自身の考えではなくてコミュニティで一般的に語られている問題です。

Flexプレイヤーが自分のメインではないヒーローをプレーした場合、同じスキル帯のメインで使っているプレイヤーやOTPに比べると総じて評価は低くなりがちです(おそらく高レートになるほど、その差が顕著になるんじゃないかと思います)。本職で使っているプレイヤーと比較される訳ですからある意味当然とも言えますね。経験上低レートでは本職が必ずしも他より優れているとは限りませんが…。

このように個人パフォーマンスを同レベルにあるプレイヤー群と相対評価することで生ずる歪を踏まえた上でJakeのリポートをまとめました。長い上に論文みたいに難解だったのでいくつか補足しつつ要点だけに絞ってあります(それでも長い)。

One Trick Players (OTP)
  • ワントリッキングそれ自体は必ずしも容認できない、歓迎できない行為というわけではないが、OTPであるがためにSRシステムからなんらかの恩恵を受けるべきではないと考えている(システムが意図したものではないにせよ)。
  • マーシーはコミュニティでもOne Trick Pony(OTPの別称もしくは蔑称)が多いヒーローとしてよく知られている(客観的なデータがあるわけではないが)。そしてMercy OTPは実質他のヒーローは一切プレーせずマーシーのみをプレーすることで非常に高いSRに達している。
  • 現行のSRシステムでは(記事の冒頭でも触れましたが)そのヒーローを他のプレイヤーよりもスタッツ的に上回るプレーをしている限り、勝った時はより多くのレートを獲得し、負けた時のレート下落をより少なくすることができる。そのため、こういったMercy OTPにとってはスタッツが優先され「勝ち負け」は二の次になっている2
  • 現行のSRシステムには様々な原因により問題が生じているが、ここでは①個人スタッツを考慮としたスキル評価の脆弱さ(説得力の弱さ)と②プレイヤーごとに異なるインセンティブ(目的意識やその結果として得られるリワード)が生じる問題の二つに絞って考えてみたい。
①個人スタッツを考慮したスキル評価の脆弱さ
  • 高い命中率、1分あたりの高いダメージ、そして1分あたりのデスが少ないマクリー使いはゲームにインパクトを与えている可能性が高い。さらにこういったマクリーにとっての指標となるスタッツを追求するプレーは平均的なゲームではスタッツが低いプレイヤーよりもチームに貢献している可能性は高い。
  • しかし、このようなスタッツ評価には欠点がある。そのダメージが的確なものだったか?フォローアップ(追討ち)なしのスパムではいたずらに相手チームのサポートにUltの餌を巻いていることになる。仮にダメージは少なくとも正確なショットを必要な場面で(例えば相手サポートやDPSがUltを発動しようとしている場面でのキルショット)決めるプレイヤーは、バックラインに陣取ったまま適切なフォーカスを行わないプレイヤーより勝利に対するインパクトは大きいと言える。しかし、現行のシステムでは後者のほうがスタッツ的に優れていればそれがSRに反映されることになる。
  • ロードホッグは的が大きいために優秀なホッグ使いはボディを晒す機会を最小限に留め、相手のUltファームに貢献しない術を知っている。よって被ダメージあたりどれだけダメージを与えることができたかも考慮されるべきだが、現行のSRシステムはこういたアクションを評価できているだろうか?
  • ロードホッグのUltは敵のドラゴンブレード、プライマルレイジから味方のバックラインを守るための手段として使われることもあるが、この時のダメージは概して少なく、ましてやキルも取れないことがある。味方サポートを守るということは単にダメージを与える、キルを取る以上のインパクトがあるが、Overwatchのように複雑で状況判断がものを言うゲームでは、こういったプレーをシステムとして正しく的確に評価できる手段があるようには思えない。
  • スキルをスタッツ基準で測ることがいかに無駄であるかが分かる究極的な例がマーシーの蘇生だ。5人を蘇生したお返しとしてアースシャッターやグラビトンサージを受け取り、それが敗因になったとしても、5人蘇生したというポジティブなスタッツのみが考慮される。一方、現実にはこういった蘇生は相手に大量のUltチャージを促す結果を招いている。
  • 仮に蘇生直後にカウンターUltを食らうことがなくても、ビッグリザレクション(5人蘇生)を発動するようなケースではそのエンゲージメントには勝ち目がないケースがほとんどあり、そのエンゲージに失敗しているのであれば、ビッグリザレクションによって戦況が変わるわけでもなく、いずれにしても相手のUltの回転を早めるだけでしかない。
  • 蘇生が味方にとってポジティブなインパクトを発揮する瞬間は概して味方のキープレイヤーが死んだ時の速やかな蘇生である(キルされた瞬間は相手もスキルクールダウン中にあり蘇生後に再びキルされる可能性は低い)。よって、より良いスタッツを残すために味方のプレイヤーが死ぬのを待ってビッグリザレクションを狙うといったプレーはチームの勝利にとっては弊害となる。
  • 蘇生は他のサポートがそうするようにチームメイトをデスから守るのではなく、デスを必要とする点でサポートのUltとしては比較的弱い機能と言える(人によっては最も強力という人もいますね)。したがって、スマートなマーシー使いであれば闇雲にヒールするのではなく、相方のサポートにヒールを譲ることでより有益なUltのチャージを促すこともある。回復/分というスタッツはこのように気まぐれな数値であり、それを追求したプレーは必ずしもインテリジェントでスキルフルなプレーを的確に反映しているとは言えない。
  • 私自身、マーシーのプレーを評価するにあたって意味のあるスタッツはデス/分(勿論少ないほどよい)とダメージブースト/分であると考えている。これらのスタッツはインテリジェントなプレーとチームに対するポジティブな影響を示すものである。さらにピストルによるソロキルも大きなインパクトを与えているはずだが、チーム状況が悪い時、こういったプレーは「スロー」と見なされることもある。
  • マーシーは巷で言われるような”no-skill hero”などではなく、問題はマーシーのスキルフルなプレーのほとんどがスタッツとして残らないために、評価に反映されないことにある。さらに今説明した、追求することでチームによい影響を与えるはずのスタッツでさえ、そのプレイヤーのスキルやゲームに与えた影響を正確に反映しているとは言えない。
②プレイヤーごとに異なるインセンティブが生じる問題
  • 勝敗よりもスタッツを最大限に上げることを意図したOTPが現行のSRシステムに優遇されている以外に、こういったOTPのインセンティブは、チーム状況によってフレキシブルにヒーローを変えるプレイヤー(Flex)のインセンティブを妨げることにもなる(以下その理由を説明)。
  • Flexプレイヤーはそのヒーローを最高レベルでプレーできないことを理解してプレーしている。しかし、優れたFlexプレイヤーはそのヒーローを完璧に操れるわけではないものの、その状況に刺さったヒーローをプレーすることで高み(高レート)を目指している。一方でOTPはそのヒーローを高い次元で操ることはできても、必ずしもその状況に刺さっているわけではないヒーローをプレーするこで高みを目指している。
  • どちらのプレースタイルもシステムから不当に扱われるべき理由はないと考えているが、少なくともどちらか一方のスタイルをシステムとしてSRという形で優遇するべきではない。
  • 現行のSRシステムではFlexプレイヤーはOTPと比較するとレートを上げるためには高い勝率を維持しなくてはならない3
  • このゲームで状況に合わせてヒーローを変えるということはゲームがデザインしたファンダメンタル(不可欠、基本的)な要素のはずである。百歩譲ってOTPがヒーロースワップを拒むことを良しとするのであれば、その判断はSRに反映されるべきである。
  • 同様にチーム内でコミュニケーションを取ろうとしないプレイヤーについてもSRに反映されるべきである。チーム内のコミュニケーションもこのゲームではファンダメンタルな要素であり、仮にコミュニケーションを取ることが義務ではないにしても、それを拒むという判断はSRに反映されるべきであると考える4
  • チームの構成や相手チームの構成に合わせたヒーローを状況に合わせて適切に選択し、チームに欠けているものを補うプレイヤーこそが優れたプレイヤーであり、SRシステムも元々はそういったプレイヤーを評価するという目的から生まれたものであると自分は考えいてる。
提案
  • 全てのプレイヤーが同じ目標を持つことができれば、ひいてはトキシックなプレイヤーやスロー、トロールの類も大幅に減らすことができるのではないだろうか(完全に排除することは不可能とはいえ)。私自身ランクマッチでは勝つことを目標にプレーしているが、プレイヤーが同一のインセンティブを共有できていないことにフラストレーションを感じることがある。
  • OTPが勝利に貢献していないというわけではないが、現行のシステムではチームのためにフレキシブルにプレーすることで、Flexプレイヤーが必要以上に不当に扱われ「割に合わない」思いをさせられている。OTPであれFlexであれシステムとして同様に勝敗という事実を持って評価されるべきである。
  • FlexにしろOTPにしろ全てのプレイヤーが同じインセンティブを共有するための唯一確実な方法は、判定基準がブラックスボックスに包まれている個人スタッツ評価や、(冒頭で触れたような)同レベルにあるプレイヤー群との相対評価を廃止することである。
  • Win/Lossに基づくSRの変動に影響を及ぼす唯一の要素は両チームの実力差であり、スキル(レート)が自チームよりも明らかに高い相手に勝利を収めた場合には、それに相応しいリワードがあるべきであり、負けた場合のペナルティは緩和されるべきと考えている。
  • Overwatch Leagueを控えて、SRシステムのありかたはより重要な意味を持つようになった。SRがプロフェッショナルなプレイヤーになるための判定基準やスカウティングに不可欠な要素となっている以上、優秀な選手がトップに登りつめ、プロ選手になるきっかけとなる今のシステムを再構築する時が来たように思う。
  • もし自分がブリザードの人間であれば、今シーズン限りで現在のスキルレートを完全にリセット(HARD Skill Rating reset)し、今後は純粋にWin/Lossに根ざしたレートシステムが必要だと考えるだろう。ベストなプレイヤーがesportsシーンにおいて名声と富を得る機会をブリザードが真剣に望んでいるなら、方法は一つしかない。
反証
  • ブリザードが現行のSRシステムを採用している最大の要因はスマーフ行為やそれに準じた行為の対策にあると私は考えている。ブリザードが本気でスマーフ対策に乗り出すのであれば、アカウントのIPなりMACアドレスをチェックしタグ付けすると同時に、内部データと参照するためにスマーフ疑惑のあるアカウントへのリポートオプションを追加することもできるはずだ。少なくともプレイヤーのスタッツを元にスロー行為を取り締まることができるのであれば、スマーフ行為も同じ方法で対処できない理由がない。
  • その上で、今後もOTPを続けたいということであれば、それ自体は何も問題はない。少なくとも他のプレイヤーにそれを止める権利はない。ただし、もしブリザードがSRをOverwatch Open Divisionのようなトーナメントに参加するための判定基準として採用するのであれば、OTPは現行のシステムに存在するようなOTPに有利に働く措置を期待してはならない。OTPであるがために不当に扱われるべきではないが、OTPであることでなんらかのリワードが得られるべきものでもない。
To Blizzard: fix it now, or condemn the eSports potential of Overwatch in the long run.
 (ブリザードには現行のSRシステムを直ちに修正してもらいたい。さもなくば、Overwatchの持つesportsとしての可能性を、長い目で見れば捨てることになる。)

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スキルレートに個人パフォーマンス(スタッツ)の評価を盛り込む弊害についてはランクマッチがローンチした直後から指摘されていました。このブログでもOverwatchネタを書き始めて間もない頃にMIT卒の元ゲームデザイナーのリポートを紹介したので覚えている方もいるかと思います。

以前から問題を指摘されながらもブリザードが個人パフォーマンスをSRの一部として考慮する理由はJakeが指摘したとおりスマーフ対策にあると思います。

スマーフ対策を抜きにしても、スタッツが加味される現行のSRシステムのほうが好ましいと考えるプレイヤーも当然いるだろうし、W/Lに根ざしたシステムにしろ、どちらが良いのか議論の余地は多いにあると思いますが、ただひとつ言えることは、こういった指摘に対して今のところ開発がダンマリを決め込んでいるということですね。

Jakeのリポート以前にこの個人パフォーマンスやOTP問題についてはredditや公式フォーラムでも幾度となく指摘されています5。コミュニティの鋭い指摘や面倒くさい話しになると、まったく話題に触れたがらないあたりはD3開発陣と通じるものがあります。

コミュニティの間で開発に対する不信や疑問が燻っている時はできるかぎり開発の考えをオープンにしたほうが結果的によい方向に進むのではないかと思います。それがOW開発陣の良さでもありましたから。

とはいえ、前触れなく突然仕様を大幅に変更してくるのも鰤の伝統芸ではあるので今後どうなるかはまだ分かりませんけどね。

脚注:

  1. プレータイムが1分に満たないヒーローについては評価対象から外れるという話しですが、公式にコメントがあったわけではありません。
  2. ここで例にあげているMercy OTPはあくまでもサンプルであり、全てのマーシー専がそうであるというわけではありません。
  3. ↓の画像や動画を見てもMercy OTPが37%というかなり低い勝率でGM以上のレートを残せていることが分かります(画像はredditの拾い物)。特にダメージブーストがスタッツとして考慮されファラマーシーが台頭したS4以降レートの上昇が顕著になっています。 
  4. この点については、Overwatchが多様性を標榜している割に、言語の壁を乗り越えるためのコミュニケーション手段、例えばクイックチャットの充実等が不足しているという指摘もあります。

  5. Rewarding One-tricks is Going to Hurt Overwatch

    Performance Based SR Gains and One Trick Ponies

    How is this “performance based” SR System still a thing?

    これらはあくまでもほんの一例。